【イベントレポート】SCAJ2026セミナー「根拠なき『サステナブル』は規制される時代へ ― 産地と築く品質・信頼、コーヒービジネスの次の一手」開催
2026.10.14 東京ビッグサイト
フェアトレード・ジャパンでは、2026年10月14日(水)、アジア最大級のスペシャルティコーヒー展示会「SCAJ2026」において、セミナー「根拠なき『サステナブル』は規制される時代へ ― 産地と築く品質・信頼、コーヒービジネスの次の一手」を開催しました。
人権・環境リスクへの対応を法令で求める動きや、根拠のない環境訴求を規制する「グリーンウォッシュ規制」が世界中で広がっています。本セミナーでは、規制の最新動向と国際フェアトレード認証の活用可能性を解説するとともに、中南米の生産者ネットワークとブラジルの生産者組合から産地の現状を共有しました。
【開催概要】
日時:2026年10月14日(水)15:00〜16:30
会場:東京ビッグサイト SCAJ 2026 セミナールームE(南会議室A)
主催:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
【登壇者】
パウロ・フェレイラ・ジュニア 氏(フェアトレード・中南米カリブ海地域(CLAC)コーヒー・コマーシャル・マネージャー)
マリーナ・イオッティ 氏(ブラジルの生産者組合COOPFAM トレーダー)
潮崎 真惟子(フェアトレード・ジャパン 事務局長)
グリーンウォッシュ規制の最新動向と国際フェアトレード認証
はじめに、フェアトレード・ジャパン事務局長の潮崎真惟子が、グリーンウォッシュ規制の国際的な動向を解説しました。

規制強化のきっかけの一つとして、欧州委員会が2020年に実施した調査が紹介されました。この調査では、対象となった環境訴求の約半数が曖昧で誤解を招くものだったと指摘されています。こうした流れを受け、EUでは「EmpCo(消費者エンパワーメント指令)」の適用が2026年9月に始まりました。主な規制内容として、次の3点が挙げられました。
- 根拠を示さない一般的な環境訴求の禁止
- サプライチェーン外のオフセットに頼った「カーボンニュートラル」表示の制限
- 認証制度に基づかないサステナビリティラベルの使用禁止
ラベルとして認められるには、基準や情報が公開されていること、独立した第三者による検証を受けていることなどが求められます。このため欧州の業界関係者からは、世界のサステナビリティラベルの7割近くが淘汰されるとの見方も出ています。
また、コーヒーとカカオはグリーンウォッシュ対策の「最前線」にある業種とされています。2026年2月には、オランダの消費者・市場庁(ACM)の指摘なども受けて、ネスレやモンデリーズなど大手3社が曖昧な表示や自社のサステナビリティロゴの見直しを約束した事例も紹介されました。
あわせて、日本国内の動きも共有されました。
- 環境省が約13年ぶりに「環境表示ガイドライン」を改定した。
- 消費者庁が8月に公表した調査で、約140種類の環境ラベルのうち4割強は何をもって環境に配慮しているかが明確でないとされた。
- 同じ調査で、消費者が第三者認証を最も信頼していることもわかった。
その上で、国際フェアトレード認証はEmpCoの要件に整合する形で制度を整えており、国内外の調査で信頼度No.1という結果も出ています。次のような特長から国際的に信頼されているラベルの一つであると説明しました。
- 包括性:環境、社会・人権、経済の3つの側面をカバーしている。
- 監査:独立した監査機関FLOCERTがサプライチェーン全体を監査している。
- 最低価格とプレミアム:経済面の柱で、プレミアムの使い道は生産者自身が民主的に決める。
- 品質への投資:コーヒーではプレミアムの25%を品質・生産性の向上に充てることになっており、この10年ほどで品質は大きく向上した。
サステナビリティの真価が問われる今こそ、信頼性の高い仕組みを備えたフェアトレードを、一歩先を行くビジネスに活用してほしいと呼びかけました。

中南米の生産現場から ー品質と信頼を築くCLACの取り組み
続いて、フェアトレード・中南米カリブ海地域(CLAC)のパウロ・フェレイラ・ジュニア氏が中南米の生産現場の状況を報告しました。

CLACは、中南米・カリブ海地域の23カ国にある約830の生産者組織を代表するネットワークです。世界で販売されるフェアトレードコーヒーの85%が中南米産であること、CLACでは127名のスタッフが各国で技術支援を行っていることが紹介されました。
パウロ氏は、生産者が直面する課題として次の3点を挙げました。
- 規制強化:消費者の目が厳しくなり、デュー・ディリジェンス、森林破壊ゼロ、グリーンウォッシュ規制への対応が求められている。
- 気候変動:コストの上昇や価格の乱高下の根本原因になっている。
- 担い手不足:若い世代が農業から離れ、生産者の高齢化が進んでいる。
その上でパウロ氏は、サステナビリティはもはや主張や単発の取り組みではなく、信頼できる根拠をもって実際のインパクトを示すことが求められていると指摘しました。
フェアトレードは、その根拠を示すツールとして機能しています。プレミアムによる投資やCLACの技術支援を通じて、生産者は組織を強化し、気候変動への適応計画を立て、安定した市場にアクセスできるようになります。その結果として、品質の向上と安定につながっていると語りました。
その品質を世界に伝える場として紹介されたのが、フェアトレードコーヒーの品評会「ゴールデンカップ(Golden Cup)」です。生産者にとっては、市場で認知され、長期的な取引関係を築く機会になります。バイヤーやロースターにとっては、新たな生産者組織と対話し、その背景にある生産者の努力を知る場になっていると説明しました。
パウロ氏は「レジリエントなコーヒーサプライチェーンは、レジリエントな生産者から始まる」という力強いメッセージで発表を締めくくりました。
気候変動にどう向き合うか ー COOPFAMの実践
COOPFAMのマリーナ・イオッティ氏からは、ブラジルの生産者組合が気候変動に向き合う現状が共有されました。

COOPFAMは、500以上の家族経営農家が加盟する協同組合です。1998年にブラジルで初めて国際フェアトレード認証を取得し、20年以上にわたって10カ国以上へ直接輸出してきました。
マリーナ氏は、気候変動による深刻な影響を語りました。2021年の大規模な霜害で、生産量は約10万袋から約6万袋に落ち込みました。さらに、不規則な降雨や高温・乾燥による開花不良、ひょうなどの被害も続いています。影響は収量の減少にとどまらず、品質や収入の見通し、生活の安定にまで及んでいると指摘しました。
COOPFAMでは、プレミアムを活用して技術・環境支援の体制を整えています。生産者一人ひとりの状況に合わせ、次のような取り組みを提案しています。
- 樹木を植えて日陰をつくる(アグロフォレストリー)
- 作物を多様化する
- 水源を保全する
- 土壌を被覆する
また、COOPFAMでは現在、生産者が参加する形で今後7年間の戦略計画を策定しています。リスクの洗い出しと優先順位づけ、関係者との根拠の共有、長期的なコミットメントという流れで進めていることが説明されました。マリーナ氏は、気候リスクを共通の課題とするには、バイヤー、ロースター、生産者が一体となった協働が欠かせないと強調しました。
パネルディスカッション
後半はフェアトレード・ジャパン事務局長の潮崎の進行のもと、両氏とのパネルディスカッションを行いました。
▲日本市場への期待や品質向上について語り合ったパネルディスカッション
フェアトレードだからこそ実現できる品質向上とは
パウロ氏は、ゴールデンカップ品評会は長年の品質改善の積み重ねの結果であると語りました。最低価格とプレミアムというセーフティネット、技術支援、研修があることで、生産者は投資を続け、生産性や気候変動への適応力を高められます。その結果がカップの品質に表れているといいます。一方で、認証を持たない小規模生産者は、資金も情報もないまま判断を迫られている現状も指摘されました。
ここ数年はコーヒーの国際相場が高い水準で推移しているものの、過去には高騰と暴落を繰り返しています。価格が不安定な中で、安定した資金源があることが現地での投資を可能にしていると、潮崎はフェアトレード価格保証やプレミアムの重要性を強調しました。
認証基準にとどまらないフェアトレードのサポート
マリーナ氏は、フェアトレードは基準を示すだけでなく、生産者に寄り添って本当に必要な支援を届けてくれると語りました。規制が始まる前から情報提供や研修で準備を後押ししてくれたことに触れ、長期的な関係づくりを最大の利点に挙げました。
日本市場の特徴と、日本企業へのアドバイス
パウロ氏は、日本の買い手は利益だけでなく関係性と長期的なパートナーシップを重視すると高く評価しました。そうした姿勢はサプライチェーンのレジリエンス(強靭性)の構築に直結しており、「その道のりはすでに半分できている」と力強く語りました。
マリーナ氏は、日本企業へのアドバイスを一言で「信頼」と表現しました。生産者たちは、自分たちのコーヒーがどこへ届き、誰の手に渡っているのかを知りたいと思っている――そのことを、日本の皆さんにぜひ知ってほしいと語りました。
潮崎は、日本企業は丁寧だからこそ最初の関係構築に時間がかかるという声もあると紹介しつつ、「だからこそ、会場に来ている生産者と企業をつなぐことが、フェアトレード・ジャパンの役割です」と締めくくりました。
おわりに ー「根拠」と「関係性」がコーヒービジネスの次の一手に
規制によって環境表示に根拠が求められる一方、産地では気候変動が品質と供給の前提を揺るがしています。本セミナーでは、この2つの課題への答えが、信頼できる認証の仕組みと、産地との長期的なパートナーシップという同じ方向にあることが示されました。
フェアトレード・ジャパンは今後も、世界の生産者や生産者ネットワークと共に、生産者と日本の企業・消費者をつなぎ、品質と信頼に支えられたコーヒーのサプライチェーンづくりに取り組んでまいります。
ご参加いただいた皆さま、ゲスト登壇者の皆さま、誠にありがとうございました。