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フェアトレードの実践から見る持続可能なサプライチェーンの可能性

  • Producer networks

三大陸のフェアトレード生産者ネットワークに聞く、生産者エンパワーメントと市場統合の現場

世界にまたがるフェアトレードのネットワークでは、フェアトレード・インターナショナルの構成メンバーである3つの生産者ネットワーク団体が、各大陸・地域ごとに生産者サポート活動を行っています。今回、各大陸の3名のコマーシャルディレクターへのインタビューから、フェアトレードが単なる認証制度を超えて、どのように生産者と市場をつなぎ、変革をもたらしているかが明らかになりました。

Interview Report

___________________________________________________ インタビュー日時:2025年9月24日 インタビュー対象:フェアトレード生産者ネットワーク  【アフリカおよび中東地域】Fairtrade Africa より Paul Colditz (以下、ポールさん)  【アジアおよび太平洋地域】NAPP より Samir Kapur (以下、サミールさん)  【中南米およびカリブ海地域】CLAC よりJoao Mattos(以下、ジョアオさん) インタビュアー:フェアトレード・ラベル・ジャパン 学生インターン 板垣こころ (津田塾大学 総合政策学部 3年(取材当時)) ___________________________________________________

interview

1. 市場アクセスの変革:認証を超えたコミュニティの力

フェアトレードによって生産者の国際市場へのアクセスはどのように改善されているでしょうか、また、従来の取引チャネルとはどのような違いがあるでしょうか。

フェアトレードが生産者にもたらす重要な変化の一つは、国際市場へのアクセス改善ですが、その本質は単なる認証やラベルの付与にとどまりません。

フェアトレードは単なる認証以上のもの

サミールさんが強調したのは、フェアトレードでコミュニティを作り、その中で市場のトレンドや業界、将来の展望などの多くの情報が交換されていることです。フェアトレード・プレミアムとは別に、技術的進歩の共有などを支援しているのです。この情報共有システムは、生産者の交渉力を根本的に変化させています。特にヨーロッパのようにフェアトレードが広く浸透している市場においては、生産者が以前よりも有利な立場で取引に臨むことができ、交渉力を高めています。

民主的なガバナンスと長期的な関係性

ポールさんは、フェアトレードの組織構造そのものが市場アクセスを促進すると強調しました。「フェアトレード・インターナショナルのガバナンスでは、50%の議決権を生産者組織が持っています。生産者自身がグローバル基準や方針の意思決定に自らの声を反映させ、希望を持つことができるのです」と言いました。

また、従来の貿易との決定的な違いは、取引関係の性質にあります。ポールさんは「従来の貿易は『切り捨てて逃げる』傾向がありましたが、フェアトレードは前払い、リスク軽減、透明性といった基準が長期的な関係構築に貢献しています」と説明しました。

加えてジョアオさんは日本市場の特性に触れ、「特に日本の市場は長期的な関係を求めており、フェアトレードの取引のような、価格だけでなく『関係』を重視するという点が、日本の文化に非常に適合しています」と述べました。

 

 

2. フェアトレード・プレミアムの民主的配分と経済的影響

フェアトレードの特徴的な仕組みの一つが「フェアトレード・プレミアム」です。

サミールさんは「プレミアムの使途については協同組合内での生産者によって民主的に決定され、フェアトレード組織はプロセスには関与しません。私たちの任務は資金が確実に生産者に届くことを保証することまでです。」と説明しました。

ジョアオさんは、この民主的プロセスの仕組みについて、「小規模生産者組織ではプレミアム委員会と総会(general assembly)でコミュニティ全体とメンバーからの意見を集め、集団的な決定を下すのです。」と話します。中でも特に興味深いのは、生産形態によってプロセスが異なる点です。「大規模農園では、農園オーナーや経営者だけで決めてしまうのではなく、労働者が主体的に使途の決定に関与します。」と意思決定の詳細を説明してくれました。

付加価値化による経済的インパクト

プレミアムの活用において、ポールさんが強調したのは「付加価値化」の重要性です。経済的効果の向上において、プレミアム活用による製品の付加価値化のために、例えばコーヒーの焙煎やカカオ豆からのチョコレート製造といった商品化が進められています。この戦略は、生産者の経済的安定を高めるだけでなく、若者が農業に魅力を感じるようになり、雇用創出にもつながります。

3. 地域ごとの多様性と課題:一律のアプローチを超えて

フェアトレードの実践は、地域によって大きく異なります。それぞれの市場の特性、文化、課題に応じたアプローチが必要とされています。各地域ではどのような特徴や課題があり、どのような対応が求められているでしょうか。

アジア太平洋地域の課題

サミールさんは、「アジア太平洋地域は、生産者やメンバー数が非常に少ないという課題を抱え、生産者は市場開拓よりも目先の収益を優先する従来型の市場志向が強い傾向がある」と語ります。アジアの生産者にとって重要なのは、売り先ではなく対価(利益)であり、フェアトレードに対しても「高い価格で売れること」が、生産者が認証に取り組む動機である傾向があります 。また、フェアトレードが求める人権や環境、持続可能な生産に対するコミットメントという点で、ヨーロッパやラテンアメリカと比較すると、「アジアは最も遅れを取っている」と指摘しました。また、現在アジアではオーガニック製品がトレンドとなっているものの、スーパーマーケットでオーガニック専用の棚が設けられている状況は「特別で高価なもの」として認識され、日常的な選択肢として定着していないことを示していると述べました。

アフリカの課題

ポールさんは、アフリカでのフェアトレード認知拡大における3つの主な課題があると言います。第一に、作物がアフリカで生産されていることから、国際的な基準への視野が狭いこと。第二に、アフリカ内でみても、人々は他国の農家よりも自国の農家を支援する地元志向の傾向が強いこと。第三に、自身の行動がグローバルなサプライチェーンに影響を与えるという認識を持つ人が少ないことです。アフリカでは、自分の行動が地域開発やサプライチェーンにどのような影響を与えるか、世界がどれほど繋がっているか、という認識を持つ人がまだ少ないと述べました。

南アメリカ(ブラジル)の課題

ジョアオさんは、市場ごとに異なるアプローチの必要性を強調しました。日本市場では、フェアトレードは品質の高さと長期的な信頼関係の構築に着目されますが、一方でブラジルでは、生産する側と消費する側が地理的に近接しているという特徴から、フェアトレードは支援の枠組みではなく、森林保護や水資源保全等の環境的な持続可能性にフォーカスすることこそが重要になっていると強調しました。また、生産国でありながら同時に消費市場でもあるブラジルのような国において、フェアトレード製品を流通することの難しさについても言及しました。ブラジルにおいて最初に大規模に流通したフェアトレード認証製品は、ブラジル産のカカオをオランダへ輸出し、オランダでチョコレートに製品化したものが、ブラジルに逆輸入される、といった製品だったそうです。カカオ産地でチョコレートを製造することが実現できれば、フェアトレード実践の大きな活路となります。

 

4. マクロレベルへの影響:政策と市場構造の変革

フェアトレードの影響は、個別の生産者や取引を超えて、より広範な政策レベルにも及んでいます。マクロレベルのシステムチェンジにもフェアトレードは貢献していることがインタビューから見えてきました。

政府政策との連携とアドボカシー

サミールさんは、アジアでは、政府が生産や輸出に関する新たな基準を設定した際に、農家が適応するための資金として、フェアトレード・プレミアムが割り当てられることがあると言います。それによって生産者側のコスト負担やライセンスの取得費用、税負担などを回避できるようにしています。つまり、フェアトレードがアジアにおける政府主導の輸出多角化戦略を支えているのだと述べました。

ポールさんは、マクロレベルへの影響の核心として、アドボカシー(政策提言)を挙げます。「フェアトレードでは、生産者は団結して組織化することで、自らの声をあげることができます。これにより、マクロレベルの政府の経済政策に影響を与えることができるといった、重要な役割を果たしています」と述べています。事例として、ケニアで政府により特定の認証制度が一時停止されたものの、フェアトレードは停止されませんでした(※)。それは、「フェアトレード認証の仕組みや基準が生産者に有益に機能しているという評価に加え、茶生産者のネットワークが団結して政府に直接働きかけることができたからです」と説明しました。

※注記:ケニア政府が2025年5月、茶生産のサステナビリティを掲げる国際認証の中には、農家だけに過度な負担を強いているものがあるとして、特定の認証制度に対してケニア国内での認証および監査の停止を命じましたが、国際フェアトレード認証は停止の対象とはなりませんでした。

市場価格への波及効果

フェアトレードの最も劇的な影響の一つが、市場全体の価格形成メカニズムそのものへの変革です。ジョアオさんはペルーの事例を挙げます。「ペルーのコーヒー市場では、フェアトレード価格での取引市場が拡大した結果、従来の市場価格全体が底上げされ、国全体の価格水準に好影響を与えました」と語ります。このことは、フェアトレード最低価格基準が買い手寡占市場におけるいわゆる「買い叩き」を是正し、生産者の収入を増加させるという理論分析の実証例だといえます。フェアトレードの一定のシェア獲得が、認証を受けていない生産者を含む市場全体に波及効果をもたらします。これはペルー以外の産地でも求められている、フェアトレードの重大な存在意義でもあります。

まとめ:地域特性を尊重した持続可能な変革

フェアトレード生産者ネットワークの3名のコマーシャルディレクターへのインタビューから浮かび上がったのは、フェアトレードが地域の文化、経済構造、政治的文脈に深く根ざした非常に包括的かつ多面的な取り組みで、生産者のみならず、組織変革にも影響を与えているということです。

アジアでのコミットメント構築、アフリカでのグローバル意識の醸成、日本での品質と関係性の強調、さらにはブラジルでの持続可能性への焦点・・これらはすべて、画一的なアプローチでは達成することはできません。むしろ、各地域の特性を活かし、生産者による民主的な決定を尊重しつつ長期的な関係性を構築していくことが、真の変革への道なのではないかと感じました。

また、同時にペルーやケニアの事例が示すように、個別の取引を超えた市場構造や政策レベルでのイノベーションをもたらす可能性も秘めています。フェアトレードは、グローバルサプライチェーンにおける力の不均衡を是正し、より公正で持続可能な貿易システムへの移行を促す存在になり得るのです。

現在、世界は気候変動の脅威に直面する中、フェアトレードによる安全網や適応能力の強化や長期的パートナーシップの提供は、生産者が変化に対応し続けるための基盤といっても過言ではありません。持続可能な未来に向けて、フェアトレードは多様な実践が重なり合うダイナミックなプロセスの真っただ中にあり、その軌跡は可能性と課題の両方を私たちに示しています。

 

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