一人ではできないことを、共に実現する~世界最大のフェアトレードコーヒー産地ペルーが切り拓く、生産者主導の新時代
ペルーのコーヒー生産者組合COCLAでゼネラル・マネージャーを務め、フェアトレード中南米CLACの理事としても活動 するヴラディミール・ヴィヴァンコさん。協同組合による民主的な運営と品質向上システムを通じて、小規模生産者の可能性を最大化しています。
ペルー南部クスコ州、世界遺産マチュピチュの奥地の山岳地帯に位置するコーヒー生産者組合COCLAでは、協同組合による民主的な運営と品質向上システムを通じて、小規模生産者の可能性を最大化しています。生産者100%出資のロースター事業「Pachamama Coffee」や、40人単位の技術支援グループ「カルパス」の導入により「農園から1杯のカップまで (From seed to cup)」を生産者自身が担う透明性の高いサプライチェーンを構築しました。気候変動への適応と高品質コーヒーの安定供給を実現し、フェアトレードの新たな可能性を世界に示しています。
【組織概要】
- 名称 : コクラ農業協同組合連合会(Central de Cooperativas Agrarias Cafetaleras COCLA)
- 設立年 : 1967年
- 国・地域: ペルー共和国クスコ県ラコンベンシオン群と7協同組合
- 取扱品種: ティピカ、カティモール、ブルボン、カトゥーラ、パチェ、カトゥアイ、ゲイシャ
- 標高 : 900〜1,800m
- 収穫期 : 4月〜9月
- 認証 : 国際フェアトレード認証、C.A.F.E. Practices、有機認証(スイス、EU、米国)、SPP
"フェアトレード認証のペルーのコーヒーは「職人の手によるコーヒー」と言えます。生産者は、自然環境と消費者の健康とを尊重し、農園で厳格な基準に基づいた作業を行っています。"
Vladimir Vivanco, ペルーのコクラ農業協同組合連合会ゼネラル・マネージャー
生産者インタビュー
SCAJ2025でのブース出展に先立ち、ペルー大使館と共同開催したカッピングイベントのために来日されたヴラディミール・ヴィヴァンコ (Vladimir Vivanco)さんに、インタビューをさせて頂きましたので、ご紹介します。 ___________________________________________________ インタビュー日時:2025年9月3日 インタビュアー:フェアトレード・ラベル・ジャパン 学生インターン 松村璃都 (明治大学 文学部3年(取材当時)) ___________________________________________________
- まずは自己紹介をお願いします。
私はCOCLA(コクラ)のゼネラルマネージャーを務めています。また、中南米フェアトレード生産者ネットワーク団体CLACでは、ペルーコーヒーネットワークの代表でもあり、コーヒー部門の理事としても活動しています。ペルー国内の生産者だけでなく、中南米全体の小規模コーヒー生産者をサポートする立場です。
- なぜペルーには、世界で最も多くのフェアトレード認証コーヒー生産者組合があるのでしょうか。
ペルーの小規模生産者にとって、協同組合は「一人では実現できないことを可能にする唯一の方法」でした。たとえば、一人の農家では農業エンジニアを雇う資金もなく、取引交渉力も乏しいため、生産改善も販路拡大も難しいのです。しかし協同組合として力を合わせれば、まとまった量を供給でき、交渉力も高まります。その結果、農業エンジニアを雇う資金も生まれ、品質向上に投資ができるようになりました。
フェアトレード市場の存在は、こうした協同組合に安定した販売機会を提供してきました。生産者は明確な価格基準を持つことで、安心して生産改善に取り組めます。協同組合は「全員がオーナー」であり、理事会も持ち回りで務めるという民主的な仕組みです。この水平的なモデルがあるからこそ、市場の価格変動が激しい状況でも持続的に発展してこられたのです。
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- フェアトレードに参加していない農家の状況はどうでしょうか。
現在、ペルーのコーヒー生産者のうち、協同組合に加入しているのは約40%。残りの60%は独立した形で生産を行っています。違いは明確です。協同組合に属する生産者は、持続可能な方法での栽培、有機農業、品質へのこだわりを重視しています。一方、未加入の生産者は、品質や環境面の配慮よりも、量を優先する傾向が強くあります。
- 日本市場に伝えたい、ペルーコーヒーの強みは何でしょうか。
フェアトレード認証のペルーのコーヒーは「職人の手によるコーヒー」と言えます。生産者は、自然環境と消費者の健康とを尊重し、農園で厳格な基準に基づいた作業を行っています。
また、協同組合には農業エンジニアチームがあり、生産者に品質や栽培方法のアドバイスを提供しています。これにより、持続的な収益性と品質向上の両立が可能になっています。
さらに、ペルーは地理的に多様な生態系を持つため、地域ごとに異なるフレーバープロファイルを持っています。現在はシングルオリジンに力を入れており、北部・中部・南部と、それぞれの地域ならではの味わいを世界に発信しています。
- 日本や欧米の企業にとって、ペルー産のフェアトレードコーヒーを導入する最大のビジネス的メリットは何でしょうか。
まず、供給面での優位性があります。ペルーは他の主要生産国と収穫期が異なるため、年間を通じた原料調達に貢献できます。
さらに、現在建設が進む新しい港「チャンカイ港」により、アジアへの輸送コストとリードタイムが大幅に削減される見込みです。これにより、日本を含むアジア市場との貿易はより効率的で競争力のあるものになるでしょう。
- 気候変動や価格変動の中で、どのように安定供給を実現しているのですか。
気候変動は世界中の生産者が直面する大きな課題です。ペルーではコーヒー栽培に適した気候を求めて、より標高の高い地域へ農園の移動を進めています。従来は800〜1,200mで栽培していましたが、現在は2,000m以上での生産にシフトしています。
低地では、カカオ栽培やロブスタ種への切り替えを進めるなど、持続可能な生産モデルへの移行を模索しています。
- 今後、日本を含めアジア市場でのフェアトレードコーヒーの可能性をどう見ていますか。
日本は「人を大切にする社会」であり、フェアトレードの理念と親和性が高いと感じています。特に若い世代は、このフェアトレードのモデルが生産者全体を支える仕組みであることを理解しており、積極的に選んでくれると期待しています。
韓国でも取引先がありますが、アジア市場全体に広がる可能性は大きいと考えています。
日本そしてアジア全体でフェアトレードが広がっていく中で、私たちが大切にしているのは、単に取引を増やすことではなく、クライアントとの心の通った関係を築くことです。クライアントと交流できる機会を得られることは、私たちにとって本当に喜ばしいことです。クライアントが私たちの目標を理解し、生産者の育成に一緒に取り組みたいと望んでくださるのは、とても励みになります。そして何より、私たちのメンバー農家はクライアントの皆さんをよく理解しています。だからこそ、お互いに学び合い、信頼に基づくパートナーシップを育てていけるのです。
- Pachamama Coffeeについて教えてください。
Pachamamaは、COCLAを含む5つの大規模協同組合が米国で設立した、生産者100%出資のロースター会社です。生産者が「農園からカップに至るまで(From seed to cup)」、すべてのサプライチェーン全体を生産者自身が担う仕組みであり、透明性とブランドの信頼性向上につながっています。さらにCOCLA内部では、新たに「カルパス- kallpas(※アンデス地方の先住民語であるケチュア語で『強さ』の意味)」と呼ばれる生産モデルを導入しました。生産者を40人単位のグループに分け、各グループに農業エンジニアを配置する仕組みです。専門家による継続的な技術支援を通じて、生産性と品質を安定的に向上させています。
このモデルは、大量生産・低価格ではなく、品質に価値を置く市場・購買力の高い市場(いわゆる Bセグメント)をターゲットにしています。そのため価格変動の影響を受けにくく、安定的に高品質コーヒーを提供できるのです。
- お話ありがとうございました!
こうして自分たちの物語をお伝えできることも、私にとっては大きな喜びです。私は、物語を語るのが大好きですから。ですので、もし何か聞きたいことがあれば、ぜひ気軽に声をかけてください。これからも、一緒に未来をつくる仲間と出会えることを心から楽しみにしています。

(フェアトレード・ラベル・ジャパン事務所にて)
関連情報
2025年9月5日に実施した、ペルーのフェアトレードコーヒーカッピングイベントのレポートをぜひご覧ください。